After the Fade

スマブラ化するストリートファイター6――クロスオーバーゲームが辿る構造的な道


スマブラ化するストリートファイター6――クロスオーバーゲームが辿る構造的な道

スマブラは最初、任天堂の内輪ゲームだった。

1999年に発売された『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』のロスターを見ると、そのことがよくわかる。マリオ、リンク、サムス、ピカチュウ、カービィ、ドンキーコング、フォックス、ネス――12キャラ全員が任天堂のゲームから来ていた。ゲームキューブ版の『大乱闘スマッシュブラザーズDX』(2001年)になっても構造は変わらない。任天堂のIPが、任天堂の乱闘ゲームで戦う。それだけだった。

あの状態のスマブラを、現在の『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』と並べると、同じゲームとは少し信じがたい。ソラ(キングダムハーツ)、スティーブ(マインクラフト)、セフィロス(FF7)、カズヤ(鉄拳)。最終的に89のファイターが登場したこのゲームは、「任天堂のお祭り」というより「ゲーム史の博覧会」に近い何かになっていた。

この変化には、ある転換点がある。

2008年、ソニックとスネークが来た日

2007年、桜井政博は『スマッシュブラザーズ拳』(現在は閉鎖)というサイトで、毎日少しずつ新キャラや新ステージの情報を公開していた。あの更新を毎朝チェックしていた人間には、ソニック・ザ・ヘッジホッグの参戦発表がどういう瞬間だったか、おそらく記憶に残っているはずだ。

それはセガのキャラだった。任天堂と長年競い合ってきた会社の、あのソニックだった。スネーク(メタルギアシリーズ、コナミ)も加わると発表された。

このとき何かが変わった。キャラ発表は「ゲームの情報」であることをやめ、「イベント」になりはじめた。ソニックのPVを見た人間のうち、実際にWiiを持っていた人はどれだけいたか。それとは別に、「来た」という事実だけを受け取った人間がいた。ゲームを買わずに、発表だけを消費するという動きが、ここから生まれ始める。

Wii U/3DS版(2014年)では、ロックマン(カプコン)、パックマン(バンダイナムコ)、クラウド(スクウェア・エニックス)、ベヨネッタ(セガ)と、参戦IP企業は増えていく。そしてここで、見落としがちな出来事がひとつあった。カプコンのキャラが参戦した――リュウだ。『ストリートファイター』のリュウが、スマブラに入った。

アルティメットで完成した「全員参戦」というビジネスモデル

2018年のスマブラSPECIALは「全員参戦」というコピーで打ち出された。1 ファイターパスと呼ばれるDLC拡張は二弾にわたって展開され、ジョーカー(ペルソナ5)、勇者(ドラゴンクエスト)、バンジョー&カズーイ(レア社)、テリー・ボガード(SNK)、ホムラ/ヒカリ(ゼノブレイド)、ミェンミェン(ARMS)、スティーブ(マインクラフト)、セフィロス(FF7)、カズヤ(鉄拳)、ソラ(キングダムハーツ)が加わった。

このとき各参戦PVは、既にゲームとは切り離されたコンテンツとして機能していた。セフィロスのPVは映画のティザーのように編集されていた。ソラのPVは「ディズニーキャラがスマブラに入った」というニュースとして、ゲームメディア以外でも報じられた。参戦トレーラーのYouTube再生数が、ゲームの売上とは異なる経路で動くようになっていた。

「次は誰か」という問いが、スマブラというゲームを語る一つの中心軸になっていた。

テリー・ボガードがSF6に来た日

2024年、ストリートファイター6のYear 2 DLCキャラとして、テリー・ボガードの参戦が発表された。2

テリーはSNKの『餓狼伝説』シリーズ、そして『KOF(ザ・キング・オブ・ファイターズ)』シリーズの主人公だ。カプコンではなく、SNKのキャラ。格闘ゲームジャンルで言えば、ストリートファイターと長年並走してきた、別の会社の顔だ。

この参戦発表を受けて、何が起きたか。KOFファン、餓狼伝説ファンがSF6のトレーラーを見た。普段ストリートファイターを遊ばない人間が、SNKコミュニティのハッシュタグからSF6の映像へ流れ込んだ。Xでのトレンドは「SF6」と「テリー」が同時に上がった。直後に舞(舞・不知火)の参戦も発表され、SNKキャラの参戦が一時的な話題ではなく方針であることが見えてきた。3

SF6の発売当初(2023年)のYear 1 DLCを振り返ると、ラシード、A.K.I.、エド、豪鬼――全員カプコン/ストリートファイター系のキャラだった。それがYear 2でSNKに扉が開いた。スマブラが2008年にソニックとスネークで外部IPに扉を開いたのと、構造として重なる。

「スマブラ化」とは何か

ここで言う「スマブラ化」は、ゲームの質や方向性への評価ではない。特定の構造の話だ。三つの軸で整理できる。

一つ目は、キャラ発表トレーラーのコンテンツ化。 ゲームを遊ばない人が、参戦PVだけを消費する。トレーラーがゲームの「予告」ではなく、それ自体として完結したコンテンツになる。SF6のテリートレーラーも、参戦シーンの演出、BGMの使い方、「あのテリーがこう動く」という発見が、SNSで独立して流通した。ゲームの宣伝が、ゲームの外で生きる。

二つ目は、ロスター議論のゲーム中心化。 「次は誰か」という議論が、ゲームプレイや新システムの話より熱を持つようになる。スマブラSPECIALの後半で何が起きていたかを思い出すと分かりやすい。コアプレイヤーの間でも、次のDLCキャラ予想が大きな話題だった。SF6でも同じ動きが始まっている。テリー・舞の参戦後、「次は誰か(コードネーム、格ゲー史上のキャラ、他社とのコラボ先)」という議論がRedditや格ゲーコミュニティで動いている。

三つ目は、異コミュニティの一時的な合流。 普段交わらないコミュニティが、参戦発表を通じて一か所に集まる。スマブラSPECIALのソラ参戦では、キングダムハーツコミュニティとスマブラコミュニティが交差した。SF6のテリー参戦では、SNKコミュニティとカプコンコミュニティが交差した。その交差は一時的で、多くの人はトレーラーを見て元の場所に戻る。しかし「SF6でこういうことが起きている」という印象がSNKコミュニティに残る。

業界全体で起きていること

SF6が特異なわけではない。同じ動きは業界全体で進んでいる。

鉄拳8は2024年にクライヴ(ファイナルファンタジーXVI)を追加した。4 ファイナルファンタジーのファンが鉄拳のPVを見た。鉄拳を遊ばない層がトレーラーのコメント欄に現れた。

モータルコンバットシリーズはもっと早くからこの構造を使ってきた。ターミネーター、フレディ・クルーガー、ロボコップ、ジョーカーといったキャラクターが歴代作品で参戦している。5 ただしMKのゲストキャラはホラーや映画のアイコンが多く、「残酷な格闘ゲームにホラーキャラが来る」という文脈の一貫性がある。

SF6とスマブラが似ているのは、同ジャンル内の競合他社のキャラが参戦しているという点だ。テリー・舞は格闘ゲームキャラだ。格闘ゲームが好きな人間が長年遊んできた、別のシリーズのキャラ。これはMKがターミネーターを入れるのとは少し文脈が違う。SF6とKOFという、同じジャンルで競い合ってきた二つのシリーズが、SF6というプラットフォームの中で交差する。

なぜこれが今起きているのか。一つはデジタル販売の経済モデルだ。DLCキャラは単体で購入できる。ゲーム本体を持っていなくてもキャラだけ買うことはできないが、トレーラーは無料で見られる。そのトレーラーがSNSで拡散されることで、ゲームの認知が広がる。新キャラの発表がマーケティングとして機能する構造が、デジタル配信時代に確立した。

もう一つは、格闘ゲームというジャンルの特性だ。格ゲーはキャラへの愛着が強い。「このキャラを使いたい」という動機でゲームを選ぶプレイヤーが一定数いる。外部IPのキャラを入れることで、そのキャラのファン層にSF6を遊ぶ理由を提供できる。

スマブラが辿った道の先に何があったか

スマブラがこの構造を進めた結果、何が起きたか。

一つは「スマブラとは何か」という問いが何度も立ち上がったことだ。「パーティーゲームか格ゲーか」という議論は、コミュニティの中で繰り返されてきた。EVO(格ゲーの大型大会)にスマブラが参加するかどうかは、毎年のように話題になる。スマブラSPECIALは参加している年とそうでない年がある。このゲームはどういう競技として扱われるべきか、誰がそれを決めるのか――クロスオーバー化が進むほど、この問いは答えにくくなった。[^smash-evo]

スマブラコミュニティが辿り着いた一つの答えは、「スマブラはスマブラ」というアイデンティティの確立だ。どのIPが入っても、スマブラのゲームとして遊ばれる。マインクラフトのスティーブでも、FFのセフィロスでも、スマブラのフレームの中で動く。ゲストキャラはスマブラのコンテンツになる。このある種の吸収力が、スマブラというタイトルを維持している。

SF6が同じ問いに直面するとしたら、それはいつ、どういう形で来るだろうか。「テリー・ボガードがSF6にいる」という状態が普通になったとき、SF6とは何のゲームか、という問いへの答えが少し変わる。その変化が大きくなるには、もう少し時間がかかる。Year 2がある段階では、SF春麗やリュウがゲームの中心にいることに変わりはない。

だが発表の経済的論理は、既にスマブラ的になっている。トレーラーがイベントになり、「次は誰か」が議題になり、異なるコミュニティが交差する。この動きは、SF6の中身がどう変わるかとは別に、SF6というタイトルがどう語られ、どう広がっていくかをすでに変え始めている。

スマブラがソニックとスネークを入れてから、ゲームそのものが大きく変わったわけではなかった。ゲームプレイの構造は同じだった。変わったのは、そのゲームの周囲で起きることだった。SF6でも、今起きているのはそれに近いことかもしれない。

  1. 任天堂, 『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』公式サイト。「全員参戦」というコピーと89ファイターの最終ロスターについては公式告知より。https://www.smashbros.com/ja_JP/

  2. カプコン, 「ストリートファイター6 Year 2 キャラクター追加情報」。テリー・ボガードの参戦はSFVIオフィシャルサイトおよび公式YouTubeチャンネルで2024年に告知された。https://www.streetfighter.com/6/ja/

  3. 舞・不知火のSF6参戦は、テリー参戦と同シーズンのYear 2 DLCとして発表された。SNKキャラ二連続参戦という形になった。

  4. バンダイナムコエンターテインメント, 鉄拳8公式チャンネル。クライヴ・ロズフィールド(FFXVI)の参戦PVは2024年に公開された。https://www.tekken.com/jp/

  5. NetherRealm Studiosによるモータルコンバットシリーズは、MK9以降ゲストキャラを定期的に追加してきた。フレディ・クルーガー(MK9)、ジェイソン・ボーヒーズ(MKX)、エイリアン・プレデター(MKX)、ターミネーター(MK11)、ジョーカー(MK11)などが含まれる。