After the Fade

ハリウッド映画は、本当につまらなくなったのか

映画; ハリウッド; 調査; 興行; 批評
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ハリウッド映画は、本当につまらなくなったのか

予告編の最初に、もう見たことのあるロゴが出る。続編の番号、リブートされたヒーロー、ゲームやアニメーションの実写化、かつてのヒット作を少し暗く磨き直した画面。音は大きく、CGは滑らかで、俳優はきちんと走る。けれど、見終わる前から手触りの見当がついてしまう。

「最近のハリウッド映画はつまらなくなった」という言葉には、たぶんこの疲れが混じっている。

それをそのまま事実として扱うのは危うい。つまらなさは測定しにくい。批評家の点数、興行収入、配信での再生時間、SNSでの話題量は、それぞれ別のものを測っている。なら、問いを少しずらしたほうがいい。

ハリウッド映画そのものが劣化したのか。あるいは、私たちが劇場で出会う「ハリウッド映画」の幅が狭くなったのか。

後者のほうが、かなり説明しやすい。映画の作り手が急に全員つまらなくなった、という話ではない。けれど、劇場の大きなスクリーンに押し出される作品の顔ぶれは、たしかに似て見えやすくなっている。

数字は「退屈」を証明しないが、棚の狭さは見せる

北米の劇場興行を見ると、パンデミック前の2019年には約12億枚強のチケットが売れていた。The Numbers の集計では、2024年は約7億6千万枚、2025年も約7億7千万枚前後にとどまる。1 興行収入だけだとチケット単価の上昇で見えにくいが、座席に座った身体の数で見ると、劇場はまだ2019年の量感には戻っていない。

上位に並ぶタイトルを見ると、空気はもっとはっきりする。2024年の北米興行トップ10は、『インサイド・ヘッド2』『デッドプール&ウルヴァリン』『ウィキッド』『モアナと伝説の海2』『怪盗グルーのミニオン超変身』『ビートルジュース ビートルジュース』『デューン 砂の惑星 PART2』『ツイスターズ』『ゴジラxコング 新たなる帝国』『カンフー・パンダ4』だった。続編、原作もの、舞台ミュージカルの映画化、レガシー続編、既存キャラクター。どれも、観客がすでに何かを知っている作品だ。2

2025年も大きくは変わらない。『マインクラフト/ザ・ムービー』『リロ&スティッチ』『スーパーマン』『ジュラシック・ワールド』の新作、『ズートピア2』、『ウィキッド』第二部、『ファンタスティック4』、『ヒックとドラゴン』、『アバター』の続編など、上位の多くが既存IPに支えられている。例外として目立つのがライアン・クーグラーの『Sinners』で、これはむしろ「大きなオリジナル映画が当たると、なぜ例外扱いされるのか」を示している。3

ここで見えているのは、作品の質そのものではない。既存IPの映画にも良いものはあるし、続編でなければ面白いというわけでもない。問題は、劇場で大きく露出するハリウッド映画の棚が、同じ種類の商品名札で埋まりやすくなっていることだ。

「つまらない」と感じる人は、個別の一本に失望しているだけではなく、棚全体の反復を見ているのだと思う。

既存IPは、物語の前に保険として働く

大作映画は、観客の2時間だけを相手にしているわけではない。製作費、宣伝費、世界同時公開、配信後の価値、グッズ、テーマパーク、次回作の可能性まで含めて動いている。企画の段階で「誰も知らないが面白い話」より、「すでに名前を知っているもの」のほうが通りやすくなるのは自然だ。

映画は物語で観客を驚かせる前に、認知で観客を安心させる。ロゴが先に来る。キャラクターが先に来る。前作との接続が先に来る。驚きより、確認が先に立つ。

確認の快楽は悪ではない。好きなキャラクターが戻ってくることには、祭りのような喜びがある。だが、それが大作の標準になると、映画の時間は少し硬くなる。画面の奥に、いつも次回作の通路が見える。死んだはずの人物が戻るかもしれない。物語の終わりが、終わりではなく「次の告知」のための踊り場になる。

余韻が残る前に、シリーズ管理の音が聞こえる。

観客は「新しいもの」を拒んでいるわけではない

観客が新しい物語を嫌っている、とも言い切れない。YouGov が2025年7月に米国成人2243人へ聞いた調査では、「新しい物語と新しいキャラクター」を好む人が32%、「続編やリブートなど既存の物語」を好む人が5%、「どちらも同じくらい」が54%だった。4

この数字を見る限り、「みんな続編が好きだから続編ばかり作られる」とは言いにくい。観客は既存IPを拒絶していないが、既存IPだけを望んでいるわけでもない。むしろ多くの人は、知っているものと知らないものの両方を見たい。

若い観客も、単純に映画から離れたわけではなさそうだ。UCLAの Center for Scholars & Storytellers が2025年に発表した Teens and Screens Report では、10歳から24歳の調査対象者について、57%が「大人が思っているより自分たちは従来型メディアを見ている」と答えた。条件がなければ週末の活動として「劇場で新作映画を見る」ことが2年連続で最上位になった、という結果も出ている。5 映画館そのものが若い世代から完全に見捨てられている、という話でもない。

ただ、彼らは映画を以前と同じ場所だけで見ていない。同じUCLAの記事では、78.4%が YouTube やソーシャルプラットフォーム上でテレビや映画を少なくとも時々見ると答えている。Deloitte の2025年調査でも、Z世代の56%、ミレニアル世代の43%が、従来のテレビ番組や映画よりソーシャルメディアのコンテンツのほうが自分に関係があると感じている。6

観客は消えたのではなく、散った。劇場、配信、YouTube、TikTok、ゲーム、切り抜き、レビュー動画、友人との会話。映画は一本の作品としてだけでなく、断片として流通する。その環境で劇場が観客を呼び戻そうとすると、どうしても「すでに知っている巨大な名前」に頼りたくなる。

そして、その頼り方がまた、劇場の棚を狭く見せる。

つまらなくなったのは、作品ではなく入口かもしれない

ハリウッドの中には、いまでも面白い映画はある。ホラーは低予算で観客の身体に直接届くジャンルとして粘っている。A24、NEON、Searchlight、Focus Features のような場所からは、中規模以下の奇妙な映画も出てくる。配信や映画祭まで視野を広げれば、アメリカ映画の声はまだかなり多い。

ただし、それらは「ハリウッド映画」と聞いて多くの人が想像する場所、つまり週末のシネコンで最大スクリーンを取る大作の列とは、少し離れている。

だから「ハリウッド映画はつまらなくなったのか」という問いは、少し分けて考えたい。

ハリウッドの作り手が、一斉に感性を失ったわけではない。映画という形式が、急に弱くなったわけでもない。だが、劇場で大きく見えるハリウッドは、以前よりも保険の厚いもの、説明済みのもの、次につなげやすいものへ寄っている。その傾きが、観客の疲れとして現れている。

「つまらない」という言葉は、個々の作品への判決としては粗い。けれど、いまの大作映画がこちらに差し出してくる経験への違和感としては、かなり正直だと思う。

見たいのは、知らない世界に入っていくあの数秒だ。画面が開いて、誰の名前にも守られていない声や場所が出てくる。物語がこちらの予測より少しだけ遅く、少しだけ違う方向へ進む。その不安定さが、映画館の暗さと合っていた。

ハリウッド映画が本当につまらなくなったのかは、まだ断定できない。けれど、退屈に見える理由はある。映画が終わったあとに残るものより、始まる前に保証されているもののほうが大きくなりすぎた。その重さで、スクリーンの明るさが少し鈍っている。

  1. The Numbers, “Domestic Theatrical Market Summary for 2019,” “2024,” “2025.” 2025年の年次ページは参照時点の集計値として扱い、本文では概数に丸めた。https://www.the-numbers.com/market/2019/summary / https://www.the-numbers.com/market/2024/summary / https://www.the-numbers.com/market/2025/summary

  2. The Numbers, “Domestic Theatrical Market Summary for 2024.” https://www.the-numbers.com/market/2024/summary

  3. The Numbers, “Domestic Theatrical Market Summary for 2025.” 2026年4月時点で参照。https://www.the-numbers.com/market/2025/summary

  4. YouGov, “Do you typically prefer movies that tell new stories with new characters, or movies that return to existing stories and characters, such as sequels and reboots?” Conducted July 23, 2025. https://today.yougov.com/topics/society/survey-results/daily/2025/07/23/40788/1

  5. UCLA Newsroom, “Get real! Teens still watch TV and movies, but want to see more mixed-gender friendships,” October 22, 2025. https://newsroom.ucla.edu/releases/teens-screens-traditional-media-friendship-storylines-center-scholars-storytellers

  6. Deloitte, “A Competition for Consumer Attention: Are Social Platforms Overtaking Traditional Studios in Entertainment and Advertising?” March 25, 2025. https://www.deloitte.com/us/en/about/press-room/digital-media-trends-consumption-habits-survey.html