After the Fade

Japanese Funkとは何か。国名がビートに変わるとき

とは何か
音楽; Japanese Funk; Phonk; バイレファンキ; TikTok
2828 文字

Japanese Funkとは何か。国名がビートに変わるとき

Japanese Funk という名前を見ると、最初はそのまま読んでしまう。日本のファンク。山下達郎、角松敏生、シティポップや和モノのグルーヴ。そのあたりから伸びた新しい枝のように見える。

けれど、音楽ナタリーの連載「徹底検証『Japanese Funk』」が追っているのは、その意味のファンクではない。1

ここでの Japanese Funk は、ジェームス・ブラウンから続くファンクの日本版ではない。TikTok 以後の Phonk、ブラジルの Funk Carioca / Baile Funk、J-POP風のメロディ、短尺動画向けの過剰なキック、日本語ボーカル、AI生成らしき声、アニメやゲーム風の視覚記号。その全部が、少し雑な接着面でくっついている。

音は軽い。短い。すぐサビへ行く。だが、その軽さの裏には、国境を越えたベッドルーム制作、プラットフォーム上の投機、権利処理の曖昧さ、「日本語らしさ」が素材として扱われる感触がある。

これは「日本のファンク」ではない

まず外しておきたいのは、これは日本のファンク・ミュージックの系譜を指す言葉ではない、ということだ。少なくとも、2026年にバイラルチャートで目立っているこの名称は、ソウル、R&B、ディスコ、シティポップを経由した日本のグルーヴ史とは別の場所から来ている。

ナタリー前編は、代表例として BellyJay の「MONTAGEM HIKARI」を挙げている。2026年1月にリリースされたこの曲は、短く、日本語のJ-POP風メロディを持ち、歪んだキックとバイレファンキ由来のリズムを含む。SpotifyやYouTubeで大きく聴かれ、日本のバイラルチャートにも入った。1

耳に残るのは、まず速度だ。イントロで溜めない。すぐ声が入り、すぐ展開し、すぐサビへ行く。声はJ-POP的に明るく、メロディはどこか夜好性のポップに近い。そこへ、普通のポップスなら少し大きすぎるくらいのキックが入る。鍵盤やパーカッションは「ツッチャッチャ・チャッチャ」と跳ねる。

二分未満。日本語ボーカル。J-POP風の旋律。歪んだ四つ打ち。バイレファンキの名残。しばしば、既存IPにかなり近いアートワーク。このあたりが、現在 Japanese Funk と呼ばれているものの輪郭になる。

ただし、境界は最初からゆるい。すべての曲がAI歌唱とは限らない。すべての曲にバイレファンキのリズムが明確に入っているわけでもない。音楽的な厳密な様式というより、TikTok と配信プラットフォーム上で機能するタグに近い。

Phonkが先に壊れていた

Japanese Funk が突然出てきたように見えるのは、名前だけを見るからだ。音の背後では、先に Phonk が変質していた。

Phonk はもともと、90年代メンフィスラップの暗さ、カセットの粗さ、ホラーコア的な空気を参照しながら、2010年代初頭にヒップホップのサブジャンルとして形を取ったとされる。だが、SoundCloud や TikTok を通るうちに、どんどん別のものになった。チルな作業用BGMにもなり、カーレース映像に付く Drift Phonk にもなり、やがて808カウベルと巨大な四つ打ちが鳴る、縦型動画用の高揚BGMになった。1

この時点で、Phonk はすでに「出自」より「使われ方」の音楽になっている。車が暴走する映像、筋トレ、ゲームのキル集、アニメの戦闘シーン。何かが過剰に昂る数秒を演出するための音楽。曲そのものの長い展開より、動画の中で一瞬だけ空気を変えることが優先される。

そこへブラジルの Funk Carioca / Baile Funk が接続する。ポルトガル語のMC、打楽器的なリズム、重い低音、声の断片を組み替える montagem 的な手つき。これが Phonk の巨大なキックと混ざり、Brazilian Phonk、Brazilian Funk、単に Funk と呼ばれる短尺トラック群へ変わっていく。

Japanese Funk は、この流れの日本版というより、Phonk と Funk が混ざり、国名を付け替えながら増殖していく流れの、遅れて出てきた枝だと思う。メキシカン、インディアン、エジプティアン、イタリアン、アラビック、チャイニーズ。国名は、その土地の音楽文化を丁寧に扱うためというより、短いファンタジーを作るためのラベルとして働く。

その中で「日本」が選ばれたときに入ってくる素材は、J-POP風のメロディ、日本語の声、アニメやゲームの視覚イメージだった。

J-POPが、外側から作り直される

Japanese Funk の面白さは、海外のプロデューサーが日本風の音楽を作り、それが日本に戻ってきて聴かれているところにある。

後編で「MONTAGEM HIKARI」の作者 BellyJay は、YOASOBI や稲葉曇などから影響を受けていると語っている。彼はフィリピン在住のプロデューサーで、2020年の「夜に駆ける」のバイラルをきっかけにJ-POPを聴くようになったという。2

これは単なる模倣とは少し違う。J-POP が海外で聴かれた結果、海外に「J-POPらしさ」を作る人が生まれた。その人たちが Phonk / Funk の作法で日本語風の曲を作り、日本のリスナーへ戻している。

ここで起きているのは、文化の輸出入というより反射に近い。日本のポップが外へ出て、別の制作環境に通され、短尺動画市場に合う形へ圧縮され、また日本へ入ってくる。

だから Japanese Funk の日本語は、私たちが普段使う日本語と少し違って聞こえる。文法的に大きく破綻していなくても、言葉が意味の奥まで沈んでいない感じがある。歌詞というより、発音、母音、J-POPの輪郭、サビとしての明るさが先に来る。日本語が、言語である前に音色として扱われている。

AIボーカルは、便利な異言語素材になる

Japanese Funk を語るうえで、AI歌唱の問題は避けにくい。

ナタリー後編は、日本語ボーカルの獲得方法として、サンプリングとAI生成の流れを整理している。過去の日本語曲を Phonk / Funk 化するリミックスの流れがあり、その一方で、生成AIによるボーカルは権利処理の壁を回避する便利な手段にも見える。2

ただし、ここは慎重に書くべきところだ。どの曲がどの方法で作られたのか、外側からは確定できないものが多い。AI歌唱と言っても、テキストから歌を作る場合と、既存の音声をもとに別の音声へ変換する場合では意味がかなり違う。ナタリー後編の追記でも、TikTokにある日本語デモを他者がAIで引き伸ばし、完成曲として流通させるケースがあるとされる記事に触れている。2

問題は、「AIだから新しい」という話ではない。AIによって、サンプリング、カバー、盗用の境界がさらに曖昧になることだ。日本語の意味を理解していなくても、日本語の響きらしきものは作れる。元の声やメロディがあっても、それを別の声に置き換えれば、ぱっと聴いた印象はオリジナルのように見える。

Japanese Funk の気味悪さはここにある。日本語が、歌詞として読まれる前に、声素材として流通してしまう。

それでも、ただの粗製乱造では片づかない

ここまで書くと、Japanese Funk はプラットフォームに最適化された雑な流行に見える。実際、その側面はある。短い。速い。似たジャケットが多い。国名ラベルを付ければ次のトレンドになる、という投機的な匂いも強い。

でも、それだけで終わらせると、少し取り逃がす。

「MONTAGEM HIKARI」が日本で聴かれたのは、単に物珍しかったからだけではないはずだ。サビの入りの速さ、明るい日本語風メロディ、過剰なキック、バイレファンキのリズムの残像。短尺動画の中では、これらがかなり強く働く。曲の構造が荒くても、フックはある。むしろ荒さが、スクロールの速度に合っている。

BellyJay のような作り手が本当にJ-POPを聴き、そこから自分の音を作ろうとしているなら、そこには雑な搾取だけでは説明できない欲望もある。遠くの音楽に触れて、自分の部屋で作り直し、思いがけずその音楽の本場に届いてしまう。これは、インターネット音楽がずっと持っていた夢でもある。

ただ、その夢はもう無垢ではない。横には、AI生成、権利の曖昧さ、レーベルによる高速リリース、バイラル寿命を前提にした焼畑型のビジネスがある。作り手の純粋な喜びと、プラットフォームの粗い仕組みが、同じ曲の中で鳴っている。

Japanese Funkとは何か

Japanese Funk は、日本のファンクではない。

Phonk が TikTok で高揚BGMへ変わり、Brazilian Funk が国境を越えて短尺化され、J-POP が海外の作り手に内面化され、AI歌唱が異言語の声を調達しやすくした。そのあとに出てきた、国名つきのバイラル音楽だ。

もっと短く言えば、Japanese Funk では「日本」が音楽ジャンルではなく、ビート上の素材名になる。

日本語は意味であり、同時に音色になる。J-POPは歴史であり、同時に短いフックになる。アニメやゲームの絵柄は文化であり、同時にクリックされるジャケットになる。国名は場所ではなく、タグになる。

この音楽を、単に偽物だと片づけるのも、単に新しいグローバル文化だと持ち上げるのも早い。Japanese Funk は、今のインターネットが音楽をどう分解し、どう再接続し、どう売り切るのかを、かなり露骨な形で鳴らしている。

残るのは、妙に明るいサビと、歪んだキックと、少し不自然な日本語だ。その軽さは、軽いまま不気味である。たぶんそこに、2020年代後半のポップの手触りがある。

曲を聴く

記事の中で具体的に触れている曲は、まずこの 2 曲だ。

BellyJay - MONTAGEM HIKARI

YOASOBI - 夜に駆ける

参照

  1. 音楽ナタリー, namahoge「海外で急増する謎の音楽『Japanese Funk』とは何か?」2026年4月16日。https://natalie.mu/music/column/668552 2 3

  2. 音楽ナタリー, namahoge「『MONTAGEM HIKARI』の作者BellyJayやドバイのレーベルに取材してわかったこと」2026年4月16日。https://natalie.mu/music/column/668584 2 3