NewJeans は、韓国ブームをどう軽くしたのか
NewJeans を聴くと、K-pop の強さが少し違う場所へ移ったように感じる。
大きなロゴ、重いコンセプト、鋭く切り替わるカメラ、全員で一点に向かう振付。K-pop にはそういう強度がある。BTS や BLACKPINK が世界市場で証明したのも、音楽、映像、ファンダム、SNS を束ねる総合的な強さだった。
けれど NewJeans の入口は、少し軽い。教室、廊下、スマートフォン、夏の湿度、古いビデオのような画面。声は張り上げすぎず、ビートは身体を前に押すが、曲は大げさに爆発しない。強いのに、押しつけがましくない。
この軽さは、突然出てきたものではない。韓流が何度も入口を変えながら広がってきたあとで、NewJeans はその波を日常の速度へ戻したのだと思う。
韓流は、ドラマと歌から始まった
韓流、つまり Hallyu は、韓国文化コンテンツの国際的な広がりを指す言葉として使われてきた。Korea.net は、1990年代後半から韓国のテレビ番組やポップ音楽が中国、台湾、香港、日本で注目されたことを、韓流の初期の広がりとして説明している。1
日本で思い出されやすいのは、2000年代前半の韓国ドラマだろう。『冬のソナタ』以後、韓国の俳優、ロケ地、音楽、ファッションが、ひとつの感情の形式として入ってきた。韓国文化は、最初から「国策で売られた商品」としてだけ受け取られたわけではない。むしろ、恋愛ドラマの画面、主題歌、俳優の表情のような、かなり具体的なものから記憶された。
その後、K-pop が YouTube と結びつく。少女時代、KARA、BIGBANG、2NE1、SHINee、東方神起、TWICE、EXO、Red Velvet。曲を聴くだけでなく、MVを見る。振付を見る。メンバーを覚える。ライブ映像、バラエティ、ダンス練習動画まで含めて追う。K-pop は「音源」ではなく、見る、覚える、真似る、共有する文化になった。
2010年代後半からは、BTS と BLACKPINK がその広がりを世界市場の中心へ押し出した。IFPI は BTS を2020年の Global Recording Artist of the Year と発表し、その時点で BTS は同賞を受けた最初の韓国アクトであり、主に英語以外で歌う初の受賞者だった。翌2021年も BTS は同賞を受け、2年連続の首位になっている。23
ここで K-pop は、地域的な流行ではなくなった。グローバルなポップの棚に、韓国語の声、韓国の事務所システム、アイドル文化、ファンダムの熱量がそのまま入ってきた。
NewJeans は、完成度より入口の温度で広がった
NewJeans は2022年7月、ADOR から登場した。通常の大型デビューのように長い予告で期待を積み上げるより先に、"Attention" のMVが出たことも印象的だった。Bandwagon は、ADOR が新ガールグループ NewJeans を公開し、デビューシングル "Attention" のMVを出した出来事として報じている。4
この出方は、NewJeans の性格に合っていた。説明を読む前に、曲と画面が先に来る。誰かの大きな宣言ではなく、すでにそこにいる友人たちを見つけたような始まり方だった。
"Hype Boy" は、NewJeans の入口として今も強い。声は軽く、メロディはすぐ覚えられる。振付は真似しやすいが、幼くはない。曲がこちらを持ち上げるというより、少し離れた場所でずっと回っている。その距離感がよい。
"Ditto" になると、軽さの奥に影が出る。冬の空気、ローファイな質感、学校の廊下、ビデオカメラ、片思いとも記憶ともつかない視線。Teen Vogue は "Ditto" のY2K的な懐かしさやローファイな構成、"OMG" のR&Bやトラップを含む感触に触れている。5 ここで NewJeans は、単なる明るいガールグループではなく、余韻のグループになった。
2023年の『Get Up』では、"Super Shy"、"ETA"、"Cool With You" が、より短く、より軽く、よりグローバルなポップとして届いた。『Get Up』は Billboard 200 で1位を記録し、NewJeans は BLACKPINK に続いて同チャートを制した K-pop ガールグループになった。6
ただし、数字だけでは NewJeans の面白さは見えにくい。評価されているのは、売れたことだけではない。音の隙間、声の近さ、映像の記憶感、ファッションの軽さ、短い動画で切り取られても壊れないフック。その全部が、同じ温度で設計されていることだ。
何が評価されているのか
K-pop の評価点は、歌唱力やダンスの精度だけでは足りない。
まず、曲、映像、振付、衣装、SNS 上の断片が一つの体験になっている。NewJeans の場合、Y2K、R&B、UK garage、Jersey club 的なリズム、制服やスポーツウェアの見え方、カメラの揺れ、メンバー同士の距離が、別々の飾りではなく同じ世界を作る。
次に、強度を小さく見せる技術がある。"Super Shy" はかなり中毒性のある曲だが、巨大なサビで圧倒する曲ではない。細かい反復、短いフレーズ、軽いステップで残る。大きく見せないから、何度も入り直せる。
さらに、グローバルさが自然に混ざっている。英語のフレーズも、欧米クラブミュージック由来のビートも入る。けれど、単に欧米ポップをなぞっている感じではない。韓国語の響き、アイドルとしての見せ方、MVの物語性、ファンとの距離が残る。混ぜ方が滑らかなのだ。
一方で、K-pop を無条件にきれいな成功物語として扱うのは危うい。未成年メンバーの見せ方、事務所主導の強さ、過密な活動、ファンダムの消費圧、ビジュアル規範の硬さは、NewJeans を含む多くの K-pop を語るときに避けられない。NewJeans の軽さも、自然発生した軽さではなく、かなり精密に作られた軽さだ。
その緊張まで含めて、今の K-pop は面白い。軽く見えるものほど、背後に産業の強い骨格がある。
どこから聴くか
NewJeans から入るなら、まずは5曲でいい。
- NewJeans "Attention"
デビューの空気を知る入口。強く煽らず、すでにそこにある夏のように始まる。 - NewJeans "Hype Boy"
グループの広がり方が最もわかりやすい。声、振付、反復の軽さが揃っている。 - NewJeans "Ditto"
いちばん余韻が残る。懐かしさと不穏さが、説明より先に画面から来る。 - NewJeans "OMG"
ポップさと少し変な物語性のバランスを見る曲。 - NewJeans "Super Shy"
短尺動画時代のK-popとして入りやすい。軽いが、かなり残る。
K-pop 全体へ広げるなら、入口は一つではない。
- BTS "Dynamite"
グローバルポップとして最も入りやすい。明るさがはっきりしている。 - BTS "Spring Day"
BTS を熱狂だけでなく、余韻のグループとして見る入口。 - BLACKPINK "DDU-DU DDU-DU"
強いビジュアル、ラップ、ファッション、決めの強さを知る曲。 - TWICE "FANCY"
かわいさと大人っぽさの間にある、ガールグループの転換点として聴ける。 - Girls' Generation "Gee"
2000年代後半のK-popを知る基礎。ここからYouTube時代の明るさが見える。 - SHINee "View"
K-pop とハウス寄りの洗練が結びついた曲。 - Red Velvet "Bad Boy"
R&B の質感から入るならよい。派手さより温度が残る。 - aespa "Next Level"
K-pop の過剰なコンセプトと曲構成の変さを知る入口。 - LE SSERAFIM "ANTIFRAGILE"
リズムと自己演出の強さがわかりやすい。 - IVE "LOVE DIVE"
NewJeans より硬質で、視線とメロディの強さがある。 - SEVENTEEN "VERY NICE"
チーム感、明るさ、パフォーマンスの入口。 - Stray Kids "God's Menu"
音圧と攻撃性のあるK-popを知る曲。
YouTubeで聴く
NewJeans
NewJeans "Attention"
NewJeans "Hype Boy"
NewJeans "Ditto"
NewJeans "OMG"
NewJeans "Super Shy"
K-pop 全体
BTS "Dynamite"
BTS "Spring Day"
BLACKPINK "DDU-DU DDU-DU"
TWICE "FANCY"
Girls' Generation "Gee"
SHINee "View"
Red Velvet "Bad Boy"
aespa "Next Level"
LE SSERAFIM "ANTIFRAGILE"
IVE "LOVE DIVE"
SEVENTEEN "VERY NICE"
Stray Kids "God's Menu"
軽さのあとに残るもの
NewJeans が代表しているのは、韓国ブームの「新しさ」だけではない。むしろ、韓流が長い時間をかけて獲得してきた複数の入口が、ひとつの軽い形に折りたたまれた状態だと思う。
ドラマの感情、YouTube の映像、K-pop の振付、ファッションの速度、SNS の切り抜きやすさ、グローバルポップの音。その全部が、"Ditto" の廊下や "Super Shy" のステップに入っている。
だから NewJeans は、巨大な韓国ブームを小さく見せたグループだ。小さく見えるから、近くに感じる。近くに感じるから、何度も再生される。
韓流は、遠い国の流行として始まり、画面の中の憧れになり、世界のポップ市場を動かす力になった。そして NewJeans では、スマートフォンの中でふと流れてくる、少し懐かしい声になった。
その軽さは、軽薄さではない。長い波が、ようやく日常の速度で鳴り始めた音なのだと思う。
Footnotes
-
Korea.net, “K-Pop, Leading the Korean Wave.” https://www.korea.net/AboutKorea/Korean-Wave/K-Pop-Leading-the-Korean-Wave ↩
-
IFPI, “BTS announced as the winners of 2020’s IFPI Global Recording Artist of the Year Award,” March 4, 2021. https://www.ifpi.org/bts-announced-as-the-winners-of-2020s-ifpi-global-recording-artist-of-the-year-award/ ↩
-
IFPI, “BTS announced as the winners of IFPI Global Recording Artist of the Year Award,” February 24, 2022. https://www.ifpi.org/bts-announced-as-the-winners-of-ifpi-global-recording-artist-of-the-year-award/ ↩
-
Bandwagon, “ADOR unveils new girl group NewJeans, drop debut single ‘Attention’ music video,” July 2022. https://www.bandwagon.asia/articles/ador-unveils-new-girl-group-newjeans-drop-debut-single-attention-music-video-hybe-july-2022 ↩
-
Teen Vogue, “NewJeans Continue to Grow With Sophomore Releases ‘OMG’ & ‘Ditto’,” January 3, 2023. https://www.teenvogue.com/story/newjeans-continue-to-grow-with-sophomore-releases-omg-ditto-review ↩
-
Korea JoongAng Daily, “NewJeans's ‘Get Up’ debuts at No. 1 on Billboard 200,” August 3, 2023. https://koreajoongangdaily.joins.com/2023/08/03/entertainment/kpop/NewJeans-Billboard-200-Get-Up/20230803105211892.html ↩