名前が二つ並んでいる——ヨーロッパのManga40年展は、帰ってきた子どもたちをどう並べたか
出展リストを上から読んで最初に気づくのは、作家の国籍ではない。名前の数だ。
京都国際マンガミュージアムの企画展「Mangaと育った子どもたち:ヨーロッパにおけるManga文化の40年」が2026年9月17日に始まった。会期は2027年1月19日まで、会場は2階のギャラリー1・2・3、観覧は無料で入館料だけかかる1。
展示は三部構成になっている。第1部が1980年代末ごろからのヨーロッパにおける受容史、第2部が「Manga家になって帰ってきた元・子どもたち」、第3部がヨーロッパ出身のManga家の作品を自由に読める読書コーナー1。
先に立場を書いておく。筆者はこの展示を見ていない。手元にあるのは主催者の公式ページ、京都精華大学の告知、京都市の事業一覧、そして出展作の版元が公開している連載情報だけだ。だから会場の動線にも展示の density にも、自分の目で見たこととしては触れない。
それでも、公式ページに載っている出展リストの並び方だけは、いま読める。そしてそれは、展示が自分につけた枠とは少しずれたことを示している。
十組のうち、単独名義は四つしかない
公式ページに掲載された出展作家・作品はアルファベット順で、次の十組と「ほか」で終わっている1。
- Christina Plaka「Yonen Buzz」「Kimihe」
- Diane Truc / Rutile「Colossale」
- Guillaume Singelin / Mathieu Bablet「Shin Zero」
- Hagane / Izu「Kraken Mare」
- 藤本正二 / Juan Albarran「マタギガンナー」
- 鶴淵けんじ / Konata「メアヘイム」
- Mogiko「Black Letter」
- Sozan Coskun「Kiela und das letzte Geleit」
- Tony Concrete「Majo no Michi」
- Yoann Vornière「Silence」
十組のうち六組が、スラッシュで区切って二つの名前を並べている。単独名義は四つだ。
公式ページはこの併記が何を意味するかを書いていない。原作と作画なのか、共作なのか、別の分担なのかは書かれていない。だから版元をあたることになる。
そこで分かるのは、少なくとも二組については、これが日本の商業誌の連載体制そのものだということだ。
「マタギガンナー」を描いているのはスペイン人で、DCから来た
藤本正二 / Juan Albarran「マタギガンナー」は、講談社『モーニング』の連載作品だ。藤本正二が原作、Juan Albarran が作画で、連載開始は2022年、単行本は11巻まで出ている2。
Juan Albarran はスペイン出身で、2013年から DC Comics で『Justice League』や『Suicide Squad』を描いていた。マンガの連載はこの「マタギガンナー」が最初になる2。
つまりこの人は、ヨーロッパでマンガを読んで育ち、ヨーロッパでマンガを描くようになった人ではない。アメリカンコミックスの現場から、日本の青年誌の分業体制に入った作画者だ。
鶴淵けんじ / Konata「メアヘイム」も同じ構造をしている。鶴淵けんじが原作、Konata が作画で、講談社のウェブ媒体「モーニング・ツー」で2025年5月22日に連載が始まった3。鶴淵けんじは KADOKAWA「ハルタ」で『峠鬼』を連載している作家で、Konata はスペイン出身、Planeta 社から自身初の連載作『Kohva』を発表したのち、この「メアヘイム」で日本デビューしている3。版元の連載告知は、この組み合わせを「『峠鬼』の鶴淵けんじ╳スペイン漫画界の鬼才・Konata」と打ち出している4。
二組とも、日本人が原作を書き、ヨーロッパ人が作画を担当し、講談社の雑誌に載っている。

画像掲載元:京都国際マンガミュージアム 企画展「Mangaと育った子どもたち」ページ(kyotomm.jp)。鶴淵けんじ原作、Konata 作画『メアヘイム』。画像の権利は作者および講談社に帰属します。
「帰ってきた」の中身
展示の第2部には「Manga家になって帰ってきた元・子どもたち」という題がついている。趣旨文はこう説明する。「子どものころからMangaに触れながら育ったヨーロッパのファンの中には、クリエーターの道を選んだ人もいます。2000年ごろから少しずつ登場したヨーロッパ出身Manga家による作品からは、日本の作品と近い形式を取りながらも、多様なテーマや独自の視点が光るものが多くみられます」1。
この説明は、個人が読者から作り手へ移動する話として書かれている。誰かが子どものころにマンガを読み、大人になってマンガを描き、その作品がここに並ぶ。
だが「マタギガンナー」と「メアヘイム」は、その筋書きの中に収まりきらない。この二作でヨーロッパ側の作家が担っているのは作画で、物語を書いているのは日本人だ。掲載媒体は日本の雑誌で、単行本を出しているのは日本の版元だ。
帰ってきたのは作家というより、作家を使う側の仕組みのほうかもしれない。
原作と作画を分け、編集者が企画から関与し、雑誌で連載して単行本にまとめる。この分業はマンガの絵柄ほど目立たないが、マンガという形式を成り立たせている骨格のほうだ。1980年代末から40年かけてヨーロッパに渡ったのは、キャラクターの描き方や読み方だけではなく、この骨格も含まれていた。そして骨格が渡った先で、日本の雑誌がヨーロッパの作画者を採用する経路が開いた。
これは「日本の作品と近い形式を取りながらも、多様なテーマや独自の視点が光る」という趣旨文の説明とは、少し違う方向を向いている。趣旨文はヨーロッパ側の独自性を強調するが、少なくともこの二組において、形式が近いのは影響を受けたからではなく、同じ編集部の中にいるからだ。
シンポジウムの第2部が、そこを名指ししている
この読みは、展示の外から持ち込んだものではない。関連イベントの組み方が、同じところを指している。
11月28日のシンポジウム「Mangaを形づくるもの」は二部制で、第2部(午後2時45分〜4時)の題は「Mangaを形づくるもの: 日本とヨーロッパをつなぐ制作の現場」。登壇はスペイン出身のManga家・Konata と、講談社編集者の千葉絢音の二人で、「制作・出版の裏側について語る」と告知されている1。
「メアヘイム」の作画者と、日本の版元の編集者。この組み合わせで話される「制作の現場」は、作風の話ではない。
第1部(午後12時30分〜2時30分)のほうも同じ方向にある。題は「Mangaを形づくるもの: ヨーロッパにおけるManga制作」で、登壇は Yoann Vornière(フランス)、Sozan Coskun(ドイツ)、そして Cristian Posocco——イタリアの出版社 Star Comics の編集マネージャーだ1。ここでも作家だけでなく、編集の側の人間が壇に上がる。
展示のタイトルは子どもたちの話をしているが、シンポジウムは二部とも編集と出版の話をしている。40年の受容史の到達点として会場が示そうとしているのは、読者が作家になったことだけではなく、制作の体制が国境をまたいだことのほうだと読める。
分からないままのこと
この展示について、公開情報から分からないことはかなり多い。
出展作家の総数が分からない。公式ページの出展リストは十組と「ほか」で終わっていて、全体で何組・何名なのかを書いていない。京都精華大学の告知にも、京都市の事業一覧にも、文化庁メディア芸術カレントコンテンツにも、展覧会情報サイトにも、この数字はない5。
展示点数も分からない。複製原画が何点なのか、同人誌や雑誌やインタビュー映像が含まれるのか、含まれるとして何点なのかは、確認できた情報源のいずれにも書かれていない5。第1部が「アニメブーム、ファンコミュニティ、メディア、翻訳、教育」というキーワードで受容史を扱うと趣旨文は言うが、それを何で見せるのかは書かれていない1。
スラッシュで併記された残り四組——Diane Truc / Rutile、Guillaume Singelin / Mathieu Bablet、Hagane / Izu——の分担も、公式ページからは分からない。本稿で役割を書いたのは「マタギガンナー」と「メアヘイム」の二組だけで、これは版元の表記で確認できた範囲にとどまる。
そして本展についての独立した取材記事は、いまのところ見あたらない。展覧会情報サイトも文化庁のカレントコンテンツも、主催者の記述を整理したもので、会場を見た人間が書いたものではない5。この記事も同じ制約の下にある。
見に行くなら11月下旬に集中している
関連イベント三本は、いずれも11月下旬に置かれている1。
11月22日(日)午後1時〜3時30分、ギャラリー6で Mogiko のトークイベント。定員50名、日本語とイタリア語の逐次通訳付き、事前申込制で受付は7月21日正午に始まっている。サイン会は当日12時30分から先着順に参加券が配られる。
11月25日(水)午後1時〜4時、1階ワークショップコーナーでライブドローイング「描かれるマンガの未来」。Yoann Vornière、Konata、Mogiko、Sozan Coskun ほかが参加し、定員なし・申込不要で、途中参加も退室も自由。この日は「関西文化の日」で入館も無料になる。三本のうち、いちばん敷居が低い。
11月28日(土)午後12時30分〜4時、1階多目的映像ホールでシンポジウム。定員200名、事前申込制。
なお11月24日(火)は休館で、水曜定休のうち9月23日と11月25日は開館する。9月19日・20日だけは京都国際マンガ・アニメフェアに合わせて午後7時まで開いている1。年末年始は12月26日から1月6日まで閉まる。
京都市の事業一覧はこの展示を「20周年記念企画展示の実施」の第二弾と位置づけている6。ミュージアムの20周年に、ヨーロッパの40年を並べる。数字の対比はきれいだが、並んでいる中身は、たぶんもう少し込み入っている。
出典
- 企画展「Mangaと育った子どもたち:ヨーロッパにおけるManga文化の40年」 — 京都国際マンガミュージアム
- 企画展「Mangaと育った子どもたち」 — 京都精華大学
- 京都国際マンガミュージアム開館20周年記念事業について — 京都市
- マタギガンナー — モーニング公式サイト
- 『マタギガンナー(1)』 — 講談社
- メアヘイム — モーニング公式サイト
- 【モーツー新連載】『メアヘイム』 — モーニング公式サイト
- マンガの海外展開をめぐる構想と、JManga が残したもの
- フランスの『キャッツ・アイ』はなぜ当たったのか
Footnotes
-
京都国際マンガミュージアム公式の企画展ページ。会期2026年9月17日〜2027年1月19日、会場は2階ギャラリー1・2・3、開館10時〜17時(最終入館16時30分)、9月19日・20日は10時〜19時(最終入館18時30分)、休館日は毎週水曜(9月23日・11月25日を除く)と9月24日・10月11日・10月12日・10月29日・11月24日および2026年12月26日〜2027年1月6日、観覧無料(入館料別途)、11月25日は関西文化の日で入館無料。主催は京都国際マンガミュージアムと京都精華大学国際マンガ研究センター、共催は京都新聞と京都国際マンガ・アニメフェア実行委員会、協力はイタリア文化会館-大阪、ゲーテインスティテュート、インスティトゥト・セルバンテス。三部構成の趣旨文、出展作家・作品のアルファベット順リスト、関連イベント三本の日時・会場・定員・使用言語・申込方法は同ページによる。同ページに投稿日の表示はない(2026年9月18日確認)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
-
講談社『モーニング』公式の作品ページおよび単行本第1巻の製品ページ。「マタギガンナー」は藤本正二による原作、Juan Albarran による作画で、2022年に『モーニング』で連載開始、2026年9月時点で単行本11巻。Juan Albarran はスペイン出身で、2013年から DC Comics の『Justice League』『Suicide Squad』などを手がけたのち、本作がマンガでの初連載にあたる。 ↩ ↩2
-
講談社『モーニング』公式の作品ページおよび単行本第1巻の製品ページ。「メアヘイム」は鶴淵けんじによる原作、Konata による作画で、ウェブ媒体「モーニング・ツー」にて2025年5月22日に連載開始。鶴淵けんじは KADOKAWA「ハルタ」で『峠鬼』を連載。Konata はスペイン出身で、Planeta 社から初の連載作『Kohva』を発表したのち、本作で日本での連載デビュー。 ↩ ↩2
-
モーニング公式サイトの新連載告知。「『峠鬼』鶴淵けんじ╳スペイン漫画界の鬼才・Konataが贈る本格ダーク・ファンタジー」という打ち出しは同ページによる。 ↩
-
出展作家の総数、複製原画の点数、同人誌・雑誌・インタビュー映像といった展示物の種類と点数、および後援団体については、京都国際マンガミュージアム公式ページ、京都精華大学の告知、京都市の事業一覧(2026年4月2日掲載)、文化庁メディア芸術カレントコンテンツ、artexhibition.jp(2026年9月9日掲載)のいずれにも記載を確認できなかった(2026年9月18日確認)。本稿ではこれらの数値を扱わない。なお京都精華大学の告知には「本イベントは日本イタリア国交樹立160周年記念事業の一環として開催するものです」という記述があるが、これはトークイベントに紐づく記載で、展覧会全体の位置づけとしては書かれていない。 ↩ ↩2 ↩3
-
京都市のページ(2026年4月2日掲載)。掲載時点では仮題で、会期も「令和8年9月中旬から令和9年1月中旬まで」という粗い表記だった。本展を「20周年記念企画展示の実施」の第二弾として位置づけている。 ↩