After the Fade

チープカシオを改造する文化は、なぜこんなに離れがたいのか

ゲーム; チープカシオ; F-91W; Ollee Watch; DIY
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チープカシオを改造する文化は、なぜこんなに離れがたいのか

チープカシオと呼ばれる時計を改造している人たちを見ると、少し不思議な気持ちになる。

元の時計は、最初からかなり完成しているからだ。F-91W も A158W も、薄くて軽くて、毎日使えて、アラームとストップウォッチがあり、CR2016 一枚で長く持つ。1 2 それなのに人は、ストラップを替え、偏光板を貼り替え、LED を変え、ついには基板ごと入れ替える。

高級時計のカスタムとは、少し気分が違う。資産価値や希少性を盛る方向ではない。ここで起きているのは、もっと手元に近い再編集だ。すでに十分に完成している日用品を、自分の生活や美意識に合わせて、ほんの少しだけずらす。そのずれの作り方が、チープカシオの改造文化にはよく表れている。

まず、壊しても惜しくなさすぎる

チープカシオの改造文化の入口は、たぶん思想より先に値段と形にある。

F-91W のような定番機は、手の届きやすい価格帯で流通していて、機能も構造も極端に複雑ではない。薄い樹脂ケース、小さなデジタル表示、三つのボタン、日付、アラーム、ストップウォッチ。できることが限られているぶん、どこをどう変えたいのかも見えやすい。1

しかも外見が強い。四角いケース、数字のレイアウト、樹脂やメタルの安っぽさぎりぎりの質感——それらは「完成品」としてすでに記号になっている。だから改造しても、元の輪郭を残したまま違う個体にできる。全部を作り直すのではなく、既存の完成形に自分の癖だけを上書きできる。

この「壊しても惜しくないのに、見た目は手放したくない」という矛盾が、改造のベースとして妙に強い。

改造は、まず見た目と手触りから始まる

実際、入口にあるのは大げさな電子工作ではない。ストラップ交換、ネガティブ液晶化、バックライトの色替え、ボタンの差し色、ケース塗装といった、見た目と使い心地の変更が多い。

Instructables にある F-91W の改造ガイドでも、NATO ストラップ化、偏光板の貼り替えによる黒背景の液晶、LED の換装といった手順がまとめられている。3 ここで面白いのは、機能を増やすことより、既製品の均一さを少しだけ崩すことのほうが中心に見える点だ。

純正のままでも困らない。けれど、純正のままでは「自分のもの」になり切らない。その微妙な距離が、改造を呼び込む。

チープカシオは、完成度が低いからいじられるのではない。むしろ、完成度が高くて、しかも量産品としての顔が強いからこそ、その均一さに細い切れ目を入れたくなる。

「casio mod」で出てくるのは、もう手法ではなく場だ

実際に casio mod や F-91W の改造例を探し始めると、見えてくるのは単発の珍工作ではない。まず出てくるのは、見せ合う場、買う場、真似る場だ。

WatchUSeek には 2020 年から続く「Casio F-91W - Post yours, stock or modded」という長いスレッドがあり、2026 年時点で 6 万件を超える閲覧と 100 件以上の返信が付いている。4 そこでは、純正のまま使う人と改造する人がきれいに分離していない。スレッドの冒頭からすでに、NATO ベルトへの交換と、ボタン音を消すために接点へテープを貼る小さな機能改造が並んでいる。以後も、黒いフェイスプレートの導入、A168 系の表示やブレスレットの移植、デュアル LED 化、色付きスクリーン、AliExpress 由来の別モジュールへの差し替えまで、同じ流れの中で共有されていく。4

ここでの「mod」は、特別な技術名というより、会話の前提に近い。ストックでもいいし、少しだけ触ってもいいし、別の個体の部品を混ぜてもいい。大事なのは、完成品をそのまま受け取る以外の態度が、ごく自然に開かれていることだ。

改造は、半田ごての文化だけではない

この場の広がりを見ると、チープカシオの改造文化を電子工作だけで理解するのは少し足りない。

GitHub にある NODE の F91-W-mods は、その感触をよく示している。ここで提案されているのは、工具なしで着脱できるクリップ式スクリーンカバーや、裏蓋側に磁力で付く Micro SD アドオンだ。5 つまり、時計を開腹して基板をいじることだけが「mod」ではない。元の防水性や外観を大きく壊さず、顔つきや使い方だけを差し替える、もっと軽い編集も同じ文化圏に入っている。

Shell Zine の長い改造ガイドも、この文化がファッションやミニマリズムの側へ伸びていることをよく書いている。そこでは F シリーズの改造が、単なる機能追加ではなく、ロゴや配色を減らして都市的な服装に馴染ませるための手つきとして説明されている。6 ここまで来ると、改造されているのは時計の機能だけではない。腕の上に見えている態度そのものだ。

基板を替える文化は、「別の時計を作る」ことではない

この文化が面白くなるのは、外装の遊びがそのまま中身の入れ替えへつながっているところだ。

Sensor Watch は、その典型だろう。これは F-91W のための基板交換プロジェクトで、元のケースと LCD を活かしながら、新しい基板に差し替えて自作プログラムを走らせる。公式サイトと GitHub では、USB 経由で書き込みができること、オープンソースのハードウェア/ソフトウェアであること、追加のセンサーボードをつなげられることが明示されている。7 8

つまり、ここでは F-91W が「時計」であると同時に、小さな開発ボードにもなる。

でも重要なのは、見た目があまり変わらないことだ。腕に乗る姿は、依然としてあの四角いカシオにかなり近い。派手なガジェットに変身するのではなく、外から見ればいつもの F-91W のまま、中身だけが急に実験的になる。この控えめさが、チープカシオの改造文化らしい。

改造の目的が、「原型を破壊して別物にする」ことだけではない。原型のままで、どこまで別の振る舞いを埋め込めるか。そのいたずらっぽさが続いている。

Ollee Watch は、スマートウォッチ化より「やりすぎない」ことが面白い

Ollee Watch も、その流れの上にある。ただし、Sensor Watch よりもずっと生活者寄りだ。

Ollee Watch の公式説明では、これは F-91W や A158W、そして Module 593 系の Casio に対応した基板交換キットで、歩数、アラーム、温度、Bluetooth 接続、NFC、RGB バックライトなどを加えるものとして案内されている。9 一見すると「クラシックなカシオをスマートウォッチ化する製品」に見える。

でも、読んでいくと設計思想はかなり抑制的だ。

開発者は About ページで、自分が長く A158W を愛用してきたこと、その美しさ、使いやすさ、電池寿命を損ないたくなかったこと、そして「手首の上にもう一つのスマートフォンは欲しくない」と感じていたことを書いている。10 実際、Bluetooth はデフォルトでは手動でオンにする設計で、常時オンも選べるが電池寿命との引き換えになる。多くの機能はアプリなしでも使え、毎日使う設定でも電池は約 10 か月、プリセット次第で最大 3 年まで伸ばせると説明されている。9

このバランス感覚がいい。

Ollee Watch は、Apple Watch の代用品を目指しているというより、チープカシオの時間感覚を壊さずに、現代的な利便性だけを少し差し込もうとしている。通知で手首を騒がせるのではなく、もともとの静かな道具としての性格をできるだけ残す。その意味でこれは「高機能化」より、かなり繊細な編集に近い。

面白いのは、ここでもやはり見た目を残すことが前提になっている点だ。Ollee Watch は新しい時計をゼロから作るのではなく、既に人々が愛着を持っているケースと表示のフォルムに寄り添っている。中身を更新しても、外側の記憶は消さない。

この流れは、製品化されたキットだけに限らない。Hackaday が紹介した Matteo Pisani の F-91W ハックでは、非接触決済カードのチップとアンテナを取り出し、より小さな形に作り直して、3D プリント部品とともに時計へ組み込んでいる。11 ここでは時計が、単なるレトロな意匠ではなく、現代の決済インフラを無理やり抱え込むための筐体になる。

この無理やりさが重要だと思う。チープカシオの改造文化は、スマートウォッチの設計思想を素直になぞるのではなく、古い形のままでどこまで現在を押し込めるかを試し続けている。

何を改造しているのか

チープカシオの改造文化が長く見えるのは、時計の性能だけを問題にしていないからだと思う。

人がいじっているのは、時刻表示の精度そのものではない。もっと小さい、使い方の癖だ。夜に見えにくいライトを変えたい。ベルトの感触を変えたい。液晶の見え方を逆転させたい。アラームの付き合い方を変えたい。毎日充電する時計には戻りたくないけれど、少しだけ現代の機能も欲しい。

つまり改造されているのは、時計という機械だけではなく、時間とどう付き合うかの作法でもある。

チープカシオは、その作法をいじるにはちょうどいい。高価すぎず、壊れやすすぎず、外見に十分な記憶があり、しかも中身を触る余地が残っている。完成された量産品でありながら、閉じたブラックボックスにはなり切っていない。その半開きの感じが、DIY と相性がいい。

何が残るのか

チープカシオの改造文化を見ていると、最新ガジェットの文化とは別の時間が流れている。

速く更新されることより、長く付き合えること。画面を増やすことより、今ある表示をどう見せるか。通知を盛ることより、手首の静けさをどう守るか。そういう基準で道具が触られている。

だから Ollee Watch のようなプロジェクトが面白く見えるのも、単に多機能だからではない。むしろ逆で、増やしすぎないまま更新しようとしているからだ。Sensor Watch も同じで、原型の親しさを消さずに、内部だけを異様に自由にしてしまう。

改造文化は、足りないものを埋めるためにだけあるわけではない。すでに十分なものに、まだ自分の余白があることを確かめるためにもある。

チープカシオは、その余白がよく見える時計なのだと思う。

参照

  1. Casio「F91W-1 | Casio Classic Digital Watch」。https://www.casio.com/us/watches/casio/product.F-91W-1/ 2

  2. Casio「A158W」。https://www.casio.com/intl/watches/casio/standard/vintage/a158w/

  3. Gautchh「Modded Casio F-91W」Instructables、2021年1月19日。https://www.instructables.com/Modded-Casio-F-91W/

  4. WatchUSeek「Casio F-91W - Post yours, stock or modded」。https://www.watchuseek.com/threads/casio-f-91w-post-yours-stock-or-modded.5212718/ 2

  5. NODE / harivanshx「F91-W-mods」GitHub。https://github.com/harivanshx/F91-W-mods

  6. XEONIQ「Modifying a Casio F-Series Digital Watch」Shell Zine。https://shellzine.net/casio-f-series-mods/

  7. Sensor Watch 公式サイト。https://www.sensorwatch.net/

  8. Joey Castillo「Sensor Watch」GitHub。https://github.com/joeycastillo/Sensor-Watch

  9. Ollee Watch「Get Started with your Ollee Watch one」。https://www.olleewatch.com/get-started-one 2

  10. Ollee Watch「About」。https://www.olleewatch.com/about

  11. Al Williams「Adding Smart Watch Features To Vintage Casio」Hackaday、2023年7月3日。https://hackaday.com/2023/07/03/adding-smart-watch-features-to-vintage-casio/