FUJI ROCK FESTIVAL '26の注目アーティストと、今年のテーマのようなもの
FUJI ROCK FESTIVAL '26の公式アーティスト一覧と特集ページを見ていると、今年の苗場には、ただ「大物が多い」だけでは済まないまとまりがある。夜の空気そのものを変えてしまいそうなヘッドライナー、ジャンルをまたいでいくインストゥルメンタル、アジア発のグローバル・ポップ、土地の匂いをまだ濃く残したサイケデリック。ばらばらに見える顔ぶれなのに、実際には境界をまたぐ身振りでゆるくつながっている。
今年のフジに公式のスローガンがあるわけではない。けれど、あえてテーマのようなものを挙げるなら、「越境するオルタナティヴ」 になると思う。国やジャンル、世代やキャリアの段階をまたぎながら、単なる雑食で終わらず、演奏や佇まいの強度でちゃんと一つの空気を作れるアーティストが多い。その軸で見ていくと、今年のラインナップはかなり面白い。
今年のテーマのようなものは「越境するオルタナティヴ」
公式の特集ページも、今年のラインナップをいくつかの角度から整理している。現行オルタナティヴ、ジャンルレスな技巧派、アジア発のグローバル・ポップ、女性が牽引するインディー、そして各地のサイケデリック。言い方はそれぞれでも、そこで前に出ているのは、既存の棚にきれいに収まりきらない音楽ばかりだ。
象徴的なのはヘッドライナーの並びだ。MASSIVE ATTACK と The xx は、ダンス・ミュージックやインディーの文脈にいながら、どちらも夜の密度そのものを変えてしまうタイプのアクトだし、KHRUANGBIN はインスト主体の越境的なグルーヴでついにその位置まで上がってきた。巨大な名前を集めたというより、フェス全体の流れ方を変える音が前に出ている。その感触が、そのまま今年のフジの輪郭になっている。
まず観たい注目アーティスト
The xx
「いま見たい理由」がいちばんはっきりしている一組かもしれない。公式プロフィールによれば、The xxは2025年に4作目へ向けて再集結していて、2026年は主要フェス出演が続くタイミングでもある。ロミー、オリヴァー・シム、ジェイミー xxがそれぞれソロで別方向へ伸びたあと、もう一度3人に戻る。その再合流を苗場で見られるのは、それだけでかなり大きい。
このバンドの強さは、音数の少なさそのものより、余白が空気を支配し始める速さにある。フジの大きなステージで、この静けさがどこまで広がるのか。そこはかなり見たい。
MASSIVE ATTACK
MASSIVE ATTACKは2010年以来のフジロック帰還になる。いま聴き直しても『Blue Lines』や『Mezzanine』の鈍い低音は古びていない。むしろ、いまの不穏な空気のほうが彼らの輪郭に近づいてきたようにさえ感じる。公式プロフィールでも、彼らは90年代を代表する存在として、トリップホップを世界に知らしめたグループとして紹介されている。
この名前がいるだけで、フェスの夜に一本、太い芯が通る。祝祭を明るくするというより、祝祭の影まで引き受ける音として置かれている感じが強い。
KHRUANGBIN
2019年にはフィールド・オブ・ヘヴンだったバンドが、今回はヘッドライナーの位置まで来た。公式プロフィールでも、近年のアルバムやコラボレーションで規模を大きくしながら、2024年作『A La Sala』ではバンドとしての芯に戻ったことが強調されている。
彼らの魅力は、特定の土地に帰属しきらないのに、どこかの風景だけは必ず連れてくるところだ。ファンク、サーフ、サイケ、各地のポピュラー音楽の影が混ざり合っていて、聴いていると国境より気候のほうが変わる。今年のフジを「越境」で読むなら、その中心近くにいるのはたぶんこのバンドだ。
TURNSTILE
今年のラインナップが懐古だけで終わっていないことを示すなら、TURNSTILEはかなり重要だ。公式特集でも現行オルタナティヴの震源地として扱われていたが、大げさには聞こえない。公式プロフィールでも、ハードコア、パンク、ラップ、ソウル、スラッシュ、サイケデリックを飛び越える新世代バンドとして紹介されている。
彼らは「硬派なジャンルを守る」ほうではなく、ハードコアの運動量を保ったまま外へ開くほうへ進んだ。その開き方が、今年のフジの編成全体とうまく噛み合っている。
Mitski
Mitskiは、今年のラインナップにある静かな緊張感を代表する存在だ。公式プロフィールでも、彼女のライブは高度に様式化され、それでいて強く心を奪うものとして紹介されている。大きく歌い上げるタイプのシンガーというより、身体の置き方や間の取り方まで含めて、ひとつのステージを組み立てる人だ。
Mitskiを今年のフジで観る意味は、単に人気アーティストを押さえることではない。インディーが大きくなったあとでも、親密さを失わずにスケールする方法を見せてくれるかもしれない。
Fujii Kaze と XG
この二組は、今年のフジを過去の延長ではなく、これからの地図として見せる存在だ。公式プロフィールによれば、Fujii Kazeはすでに世界的なバイラルヒットや海外ツアーを経験し、2026年にはCoachella出演も果たしている。XGもまた1stフルアルバム『THE CORE - 核』でBillboard 200のTOP100入りを果たし、ワールドツアーを進めている。
重要なのは、この二組が「海外でも通用する日本のアーティスト」として置かれているわけではないことだ。最初からグローバルな循環の中で動いているポップ・アクトとして見たほうがしっくりくる。フジロックが長く持ってきた多国籍性と、2020年代的なポップの流通が、ここでようやく自然につながった感じがある。
まだ広がる余白も面白い
もう少し掘るなら、BADBADNOTGOOD の最新作が掲げる「カオス / 秩序 / 成長」という3つのムード、HYUKOH が音楽・言語・ビジュアルを束ねて作る時間感覚、TINARIWEN の砂漠のブルースが持つ政治性と高揚、YUUF の瞑想的でボーダーレスなインストゥルメンタルも、この年の空気をかなりよく補強している。
今年のフジは、単純に「ロックが強い年」でも「ポップが多い年」でもない。異なる土地や方法論を持つアーティストたちが、どうやって同じ3日間の流れを作るかを見たくなる年だ。
2026年の苗場は、境界のあいだに熱が宿る
第1弾特集と現在のアーティスト一覧を見比べるかぎり、FUJI ROCK FESTIVAL '26は、一つの巨大な物語を押し出す年ではない。むしろ、暗さと解放感、技巧と身体性、ローカルな根とグローバルな流通が、同じ会場の中で何度もつながり直される年になりそうだ。
今年のテーマのようなものを最後にもう一度だけ言うなら、やはり 「越境するオルタナティヴ」 になる。苗場で起きそうなのは、ジャンルの勝ち負けではない。境界のあいだに熱が宿る瞬間を、どれだけ多く目撃できるか。その勝負だと思う。
まず聴いておきたい7曲
本文で大きく触れたアーティストたちを、まずは YouTube でたどれるように並べておく。
The xx - On Hold
Massive Attack - Teardrop
Khruangbin - Evan Finds The Third Room
TURNSTILE - NEVER ENOUGH
Mitski - Nobody
Fujii Kaze - Hachikō
XG - SHOOTING STAR