BE:FIRST『I Want You Back』を聴くとき、Jackson 5 の文脈は聞こえているか
BE:FIRST の『I Want You Back』を再生すると、まず現在形のポップとして届く。グループの声の受け渡し、振付を前提にした画面、きれいに磨かれたグルーヴ。そこにあるのは、2020年代のボーイズグループ作品としての強さだ。
ただ、この曲はそれだけでは終わらない。
「I Want You Back」というタイトルは、ポップスの便利な常套句ではなく、Jackson 5 の 1969 年の楽曲へまっすぐつながっている。では、いま BE:FIRST 版を気持ちよく聴いている人は、その先にある Jackson 5 と Motown の文脈まで一緒に聴いているのだろうか。
これは「同名曲」ではなく、かなり明示的なカバーだ
まず確認しておきたいのは、BE:FIRST 版『I Want You Back』は、Jackson 5 の曲名を借りた別曲ではないということだ。公式 MV の説明欄には、Berry Gordy Jr.、Alphonso James Mizell、Frederick J. Perren、Deke Richards が作家として記され、そのうえで SKY-HI と Sunny の Additional Lyrics、Sunny と Zen の Arrangement、SKY-HI と Sunny の Produced by が並んでいる。さらに、1969 年の著作権表記と Sony Music Publishing (Japan) による許諾の記載もある。1
つまり、これは「何となく昔の名曲を参照した」程度の曖昧なオマージュではない。
元曲の骨格を引き受けたうえで、現在の BE:FIRST の身体と制作体制へ移し替えたカバー / 再構成だ。
ただし、ここで面白いのは、文脈がちゃんと残っているのに、聴取体験の表面ではかなり見えにくいことだと思う。多くの人はサブスクのタイトルか YouTube のサムネイルから入り、説明欄のクレジットまでは開かない。曲はまず「BE:FIRST の新しい映像作品」として届き、そのあとでようやく「Jackson 5 の曲でもある」と判明する。
Jackson 5 の文脈とは、単なる豆知識ではない
では、その「文脈」とは何か。
Motown 側の記述を追うと、『I Want You Back』は Jackson 5 の Motown デビューを決定づけた曲であり、1969 年にロサンゼルスの MoWest で録音され、同年 10 月 7 日にシングルとして出た。翌 1970 年 1 月 31 日には Billboard Hot 100 の首位に達し、その後の「ABC」「The Love You Save」「I’ll Be There」へ続く連続首位の出発点になった。作編曲・プロデュースの中核には Berry Gordy、Fonce Mizell、Freddie Perren、Deke Richards による The Corporation がいた。2
Motown Museum の紹介では、Jackson 5 は 1968 年に Bobby Taylor に見出され、Berry Gordy に契約され、1969 年には Diana Ross がロサンゼルスでの業界向けお披露目とコンサートの導入に関わったとされる。3 ここで重要なのは、これが「後に伝説になる兄弟グループの若いころ」ではなく、Motown が新しい時代のスターをどう立ち上げるかという産業的な場面でもあったことだ。
しかも、Classic Motown の記事が強調するように、この曲の衝撃は「子どもが年齢以上のソウルを歌ってしまう」ことにあった。2 マイケルの声は、かわいさの記号ではなく、幼さと切実さが同時に鳴る異様な装置だった。だから『I Want You Back』は、ただ陽気な失恋ソングとして残ったのではない。黒人ポップの洗練、家族グループの物語、Motown のクロスオーバー戦略、そして子どもの声が持つ危うい魅力までを一緒に運ぶ曲として残った。
BE:FIRST版が前に出しているのは、別の現在性だ
そのうえで BE:FIRST 版を見ると、前に出ているものが違う。
公式 MV の説明欄には、Sunny と Zen のアレンジ、Tri-Beam の生演奏クレジット、そして NOPPO による振付と多数のダンサー名が細かく記されている。1 ここで強調されているのは、ひとりの天才的な子どもの声ではなく、複数の声と身体を編成する現代のグループ・パフォーマンスだ。
この置き換えは、良し悪しというより機能の変化として見るべきだと思う。
Jackson 5 版の『I Want You Back』が「登場」の曲だったとすれば、BE:FIRST 版は「記憶を現在のフォーマットに載せ直す」曲だ。原曲が持っていた切迫感や若さは参照されるが、そのまま再現されるわけではない。代わりに、今の日本のポップグループが持つ洗練、隊列、視線の配分、パフォーマンスの設計が前へ出る。
だから、同じ『I Want You Back』でも、鳴っている歴史の重心はかなり違う。
元曲では、Motown が次の時代を作るために Jackson 5 を押し出していた。BE:FIRST 版では、すでに古典になった曲を、自分たちの現在へ接続し直している。前者は未来の発明で、後者はアーカイブの再起動だ。
多くのリスナーは、たぶん Jackson 5 の文脈まで知らない
結論から言えば、たぶん知らない人のほうが多いと思う。
でも、それはリスナーの怠慢というより、今の音楽流通の設計に近い。
プラットフォーム上では、曲はまずサムネイル、ショート動画、再生リスト、推しのパフォーマンスとして出会われる。クレジットや制作背景は二段目、三段目に下がる。そこでは、歴史は「知っていたら少し面白い情報」へ圧縮されやすい。とくに海外の古典曲は、メロディやフレーズだけが軽やかに再流通し、その背後にある黒人音楽史やレーベルの政治性は省略されがちだ。
だから、BE:FIRST 版『I Want You Back』を気に入っていても、それが Jackson 5 の Motown デビューの延長線上にあると意識していない人は、かなり自然に存在するはずだ。むしろ、今のポップ環境は、そういうふうに「文脈を剥がしたまま気持ちよく聴ける」ことを強みにしている。
それでも、文脈を知ると曲は少し厚くなる
とはいえ、ここで言いたいのは「知らずに聴くな」という話ではない。
ポップスは、元ネタを全部知っていないと楽しめないクイズではない。BE:FIRST 版は、BE:FIRST 版としてちゃんと成立しているし、その洗練や手触りは現在の作品として評価されるべきだ。
ただ、Jackson 5 の文脈を知ると、この曲は少し厚く聞こえる。
きれいなカバーとしてだけでなく、1969 年の Motown、Gary 出身の兄弟グループ、Diana Ross による導入、The Corporation の職人的な設計、マイケルの声の危うさ、そうしたものを遠くで反響させる歌として聞こえ始める。
BE:FIRST 版『I Want You Back』を聴いている人が Jackson 5 を知っているか。答えは、おそらく「半分以上は知らない」だと思う。
でも、本当に大事なのはそこではない。その知らなさが、いまのポップがどれだけ軽やかに歴史を運び、同時にどれだけ簡単に歴史を見えなくしてしまうかを示している、ということだ。
Footnotes
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BE:FIRST / I Want You Back -Music Video- の現在の公開タイトルと説明欄。原作クレジット、Additional Lyrics、アレンジ、演奏、振付、許諾表記を参照。 ↩ ↩2
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Jackson 5 - "I Want You Back" | Classic Motown。1969 年の録音、1969 年 10 月 7 日のリリース、1970 年 1 月 31 日の全米 1 位、The Corporation のクレジットを参照。 ↩ ↩2
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The Jackson 5 | Motown Museum。Bobby Taylor による発見、Berry Gordy との契約、Diana Ross によるお披露目、最初の 4 作連続全米 1 位を参照。 ↩