After the Fade

手のひらの DJ 台——DJ2GO2 TOUCH と「始める」ことの意味

音楽; DJ; 機材; Numark; DJ文化
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手のひらの DJ 台——DJ2GO2 TOUCH と「始める」ことの意味

DJ 文化の「重さ」

DJ を始めたいと思ったとき、最初に立ちはだかるのは機材の問題だ。

かつての標準的な DJ セットは、重かった。Technics SL-1200 を 2 台、Vestax や Pioneer のミキサー、そしてレコード——ジャンルと時代を問わない選盤をするなら、数十枚、数百枚の規模で持つことになる。総費用は安く見積もっても数十万円。スペースも必要で、都市部のワンルームでは置き場に困る。

そのハードルは、単に財布の問題ではなかった。DJ という行為自体が、長い時間をかけて身体に染み込ませるものだという前提があった。レコードを探して、聴いて、混ぜる。その繰り返しの先に「DJ になる」があった。

入口がそこにしかなかった。

ソフトウェアが変えた敷居

転機は 2000 年代に訪れた。

Serato Scratch Live の登場(2004 年)で、ターンテーブルにコントロール盤を乗せてデジタルファイルを操作できるようになった。やがて PC とコントローラーだけで完結するソフトウェア DJ が一般化し、Traktor、Serato DJ、Rekordbox が競い合いながら機能を増やしていった。

機材は小さくなり、値段は下がった。USB バスパワーで動く 2 万円台のコントローラーが現れ、「PC + コントローラー」という組み合わせが、入門の標準的な形になっていった。

レコードからファイルへ、重い機材から軽い機材へ——DJ という行為の「物質」が変わった。

DJ2GO2 TOUCH とは何か

Numark の DJ2GO2 TOUCH は、その流れのさらに先にある。

サイズは手のひら以下。USB ケーブル 1 本で PC につなげば、それだけで動く。Serato DJ Lite が同梱されているので、ソフトウェアを別途買う必要もない。価格は $89 前後(日本では 1 万円前後)。

2 デッキ構成で、クロスフェーダー、ピッチフェーダー、そしてタッチセンシティブのジョグホイール——DJ の基本操作を一通り備えている。8 パッドにはキューポイント、ループ、サンプルの機能が割り当てられる。内蔵オーディオインターフェイスがあるので、ヘッドフォンと出力先のスピーカーをつなぐだけで音が出る。

できないことも正直に言えば、出力端子は 1/8 インチ(ミニジャック)のみなので、クラブや大型 PA に直接つなぐ想定ではない。音質もスタジオグレードではない。「どこでも軽く使える」ための設計なので、その割り切りは一貫している。

「最小構成」という問い

$89 で、これだけのものが手に入る。では、これだけあれば DJ か?

問いは単純に見えて、根っこが深い。

DJ の本質が「音を選んで、繋いで、場を作ること」にあるとするなら、道具の大小は関係ないはずだ。道具を最小化しようとする試みは、DJ 文化の歴史に繰り返し現れてきた。最小構成が問うのは、「DJ には何が必要か」ではなく、「DJ という行為から何が取り除けるか」だ。

DJ2GO2 TOUCH の存在は、その問いをより手前に引き寄せる。Pioneer DDJ-FLX4(3 万円台)と比べれば機能は限られる。でも、そこで何かが消えるわけではない。音楽を選び、つなぎ目を判断する行為そのものは、変わらず残る。

誰のためのコントローラーか

Digital DJ Tips のレビューなどを見ると、DJ2GO2 TOUCH のユーザー像は思ったより幅広い。

旅先に持っていく DJ、自室で気軽に練習したい学習者、友人の家に持ち込んで場を温める人、子どもへの最初の一台。「本格的な機材を買う前に試す」という用途だけでなく、「これで十分」という使い方も実在する。

コンパクトな機材は、「ここではないどこかで使う」自由を与える。クラブや箱が前提ではなく、キッチン、居間、屋外——音楽をかけることができる場所が、DJ の場所になる。

この広がりが何をもたらすかは、まだわからない。入口が変わりつつあることは、少なくとも見えている。

入口の形

DJ という文化は、閉じていることで守られてきた側面がある。重い機材、長い修行、狭い門——それが質を担保していた、という見方もある。

DJ2GO2 TOUCH は、その門を取り除くわけではない。ただ、別の入り口を作る。$89 で手に入る入口から、どこへ行くかは、使う人次第だ。

始まりの敷居が低くなることで何が失われ、何が生まれるかは、入ってくる人たちが決める。

参照